2008年3月20日木曜日

「不安なホテル・旅館には泊まれない!」 - 今求められるホテル・旅行業界の安全確保

「第36回HOTERES JAPAN 2008」、「第29回フード・ケータリングショー」、「第8回厨房設備機器展」の3展の合同開催となる、 "ホスピタリティ"と"フードサービス"の専門展示会「HCJ2008」がこのほど、東京ビッグサイトで行われた。3展合同の来場者数は91,973名にも上り、好評を博した。

今回は、エレベーター事故、大浴場での感染症、耐震強度偽造……といった施設をめぐる様々な問題が世間を騒がしている昨今の、ホテル・旅館の安全対策を知るべく、国際観光施設協会主催セミナー「ホテル・旅館の安全確保 - 不安なホテル・旅館には泊まれない!」に参加。同セミナーをレポートする。


エレベーターの安全対策

セミナーではまず、日本エレベーター協会の三根俊介氏による、エレベーターの仕組みや耐震基準についてが語られた。

現在、作られているエレベーターは1990年代後半に登場した、エレベーター昇降路内に機器を設置した、ロープ式エレベーター・トラクション式・機械室なしのエレベーターだという。それまでの機械室のついたエレベーターや油圧式エレベーターに比べ、自由に設置できるようになったため、現在作られているほとんどのエレベーターがこのエレベーターになっているとのことだ。

日本でのエレベーター耐震設計基準制定は1972年。それまでは、メーカーの自主基準があっただけで、業界全体で統一されたものはなかったそうだ。その時、制定されたものが、「昇降機防災対策基準(旧耐震基準)」だ。その後、1981年に「エレベーター耐震設計・施工指針(新耐震基準)」、1998年に「昇降機耐震設計・施工指針(新新耐震基準)」が制定され、耐震性能が見直された。今では多くのエレベーターに地震感知機能が付いており、地震が発生すると、最寄り階に停止し、ドアが開き、人が出たらドアが閉まるという仕組みになっているそうだ。地震の規模が小さい場合は、約1分後に自動的に運転を再開し、規模が中~大の場合は技術者が点検を行なうまで運転は再開されないらしい。震度6以上の大規模震災時でのエレベーター復旧期間は、数日~1週間程度が必要とされているらしい。

同氏は話の中で、「エレベーターの管理者・所有者は、エレベーター管理費用を今まで以上に確保するべき」と強調。参加者にとって印象的に響く発言だった。


浴場の安全対策について

次に、ユニ設備設計の取締役会長である小川 正晃氏による「大浴場におけるレジオネラ感染症」の話がなされた。

大浴場でのレジオネラ感染症集団感染はいくつも報告されており、最大の被害は、2002年7月に宮崎で起こったもの。その時の感染者は295人、そのうち7人が亡くなったという。レジオネラとは、淡水の水の中や土壌に休息状態で生息している菌で、25~40℃の水の中で繁殖するため、大浴場はレジオネラが喜ぶ場所の1つだと言える。レジオネラは、"循環式浴槽"、"湯の滞留箇所(配管・浴槽)"、"ろ過器"、"湯の貯留槽"、"ヘアキャッチャー"などに生息していることが多く、この辺を念入りに清掃することが、感染症患者を出さないためのポイントとのこと。そして、その他の注意点として、以下のことが挙げられていた。

・ろ過器が浴槽と同一階にある場合は、どこかに必ず滞留箇所があるので要注意すること。この場合は、配管を変えた方が良い。また、新しく設置する場合は、この点に必ず注意すること

・浴槽の水位を保つためにつける浴槽連通管が長かったり、水位検知器が別の部屋にあったりする場合はその管内の排水ができないので汚物が堆積する。浴槽連結管はできるだけ短くし、水位検知器はできるだけ浴槽の近くに設置すること

・ろ過器は循環湯が滞留しない造りのものを選ぶ

・消毒液はできるだけ自動注入にする。また浴槽ごとに管理した方が良い

上記の内容は、大浴場やホテル経営者には貴重であり、実践すべき点であろう。


厨房の安全対策について

今度は、NRTシステムの取締役プロジェクトマネージャーである隈元 晃氏による「厨房の安全対策はいかにあるべきか」と題した、ホテル・旅館の厨房の安全に関する内容だった。

厨房の作業区画は、"検収・検品コーナー"、"下処理コーナー"、"加熱調理コーナー"、"洗浄・保管コーナー"、"作業員更衣室"、"厨房質全体"に分けられているという。常に一定の品質・条件を保つために、これら全てのコーナーで検査表を作り、誰がチェックしても同じクオリティを保てるように指導することが、管理者の役割だと同氏は力説する。「魚と野菜を切る包丁は一緒にしないことや食品を直に置かないなど、基本的なことを徹底して行なっていくことが、厨房の安全のために必要である」(同)。

また同氏は「清潔な人じゃないと、清潔な料理は作れない。調理場に入る人は常に清潔を保つこと」とも言う。食中毒予防だけではなく、食品の品質管理が騒がれている今、食品を扱う誰もがこのことを大切すべき点なのかもしれない。


地震対策マニュアルの重要性

最後は、新潟県旅館組合の理事長である野澤 幸司氏による「2度の大地震体験と地震対策マニュアルの重要性」という話だ。

野澤氏は、2004年10月23日と2007年7月16日に起きた新潟県中越沖地震の体験から学んだことから地震対策の重要性について語った。「地震が起こった際、ホテルが一番大切にしなければいけないのはお客様。経営者は、お客様が不安にならない対策を取らなければいけない。旅館の経営者がその場にいた場合は、社員に指示ができるが、必ずしもそこに居るとは限らない。そんな時のために、旅館は危機管理マニュアルを作り、それに基づいて社員が動くようにする体制を整えなければいけない」とのこと。現在、その2回の地震の経験を元にマニュアルを作成中で、出来上がり次第、全国のホテルや旅館などに配布するとしている。

同氏の話には、地震を経験してなければ語れない話が多く、一般の人が聞いてもためになる話ばかりだった。例えば、「家やホテルに設置している電話や携帯電話は、地震後すぐにパンクをしてしまい、繋がらなくなるが、公衆電話は比較的繋がりやすい。周囲5km以内の公衆電話の場所を、あらかじめチェックしておくといい」、「2回の地震とも被害が大きかったのは、直径10km圏内だけだったし、今の地震はそういう状態のものが多い。仕入先を決める場合、近所のほか少し遠くの仕入先を数軒確保しておくと、近くの業者がダメな場合も10km以上先の業者なら地震直後でも営業が開始できる」などだ。

現在、新潟県は、2回の地震で大幅に減ってしまった観光客を取り戻すため、季節に応じたキャンペーンを行なっている。春は、日本一の数を誇るチューリップや、桜などの花の鑑賞。夏は、花火。秋は、お米・魚・お酒などの収穫祭。冬は、温泉やスキーといった感じだ。最後に、野澤さんは「季節ごとにさまざまなものが楽しめる新潟にぜひ来てください」と、このセミナーを締めくくった。


上記のように、エレベーター、浴槽、厨房、耐震という点でホテル・旅館の「安全性」について、ホテル・旅館業界全体で真摯に取り組んでいることがわかった。「事故や惨事が起きた時に気づいても遅い」ということは痛感している。そんな想いが講演者の語りから伝わるものもあった。また講演者の話が終了後、セミナーに参加していたホテル関係者から様々な質問が飛びかった。私はそうしたやりとりを聞き、自分のホテルを大切に思い、利用者の安全を最優先で考えているホテル・旅館にぜひ泊まってみたいという気持ちになった。

出典:マイコミジャーナル